Concept:

 

「歯医者を、好きになれる場所へ」

 

 

福岡市南区野間の幹線道路沿いに、その歯科医院はある。

ガラス越しに見える淡いアースカラーの壁面と、ゆるやかな曲線で構成されたカウンター。

そこは、まるでケーキ屋や街角のカフェのように“歯医者らしくない”歯医者だ。

 

設計を依頼してくれたのは、フランスに住んでいた経験を持つ女性歯科医のみほ先生。

「地域に根ざし、子どもからお年寄りまで安心して通える場所にしたい」

その想いを受けて、まず向き合ったのは、自分自身の“苦手な歯医者像”だった。

 

無機質で、冷たくて、なぜか緊張してしまう。

だからこそ、ここではその真逆を目指した。

柔らかさ、安心感、そして少しのワクワク。

 

院内には、1席ごとに格子を組んだ空間が並ぶ。

それは、フランスのマルシェ（市場）のような、にぎやかさと親密さを感じさせる構成だ。

診察台を倒したとき、ふと見上げれば、そこには空を模した天井が広がる。

子どもたちが緊張しないように。大人も、少し気が紛れるように。

 

細部に込めたのは、「治療の場」ではなく、「誰かの暮らしに寄り添う場所」としての歯科医院の在り方。

歯医者らしくない歯医者。その設計思想は功を奏し、通行人の目を引き、

いまでは「なんだか気になる」と足を止める人が後を絶たない。